冬の中の掛け軸/遙洋
雪がふっていた
中庭の、循環のとまった池の黒い水面に、雪が落ちてきては染みていった
この水底には八月の終わりより散り始めた花や木の葉などがしずかに沈んでいる
ゆきばをうしなった色彩がよどんで、闇のような色をしている池に
雪が落ちて、水墨画の中にいるようだ
以前の恋人からの手紙が届いた
今の恋人は行方知れず、ひとり冬のなかにいる
昔みた映画などを思い出して
思い返そうとすると雪のように落ちてくる
あの黒い水面に降っては消えて
さざ波もたたない
結婚をしましたがまだ子どもにはめぐまれず
それでも今は大変幸せです
思い出していた
しようのないことを、天から雪がおちてくるようにおもいだした
それは私に届く前に溶けて消える
過去にはあざやかなものがない、まるで水墨画のようだ・・・
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