蜜月と迷子/茜井ことは
頭まで毛布を被り
丸めた背中の向こう岸に
たまった呼吸の骸が、たからもの
眠りはぬくもりに引きずられてくると
信じて布団にもぐりこむ
あなたをここに押しこめたい
寝息の小川を
すい、と
ゆるやかな風がすべる
水面はわたしの真下でしか
揺れずに
ひとりきりで流されて
ぱちりと
目が覚めてしまう
あたりを見渡しても
何もない
布団という小さな宇宙は
狭すぎて
誰も入ってこられない
毛布をめくれば
するすると抜けていく
蓄積されたあたたかいわたしの呼気
それでもまだ
わたしは目をつむる
かつて与えられていた
まなざし、抱擁、あるいは慈愛
年を重ねていくごとに
失われた蜜月は
きっとまだ、どこかにあると
諦めきれないせいで
だからわたしは
深く深く
すべて忘れて眠りたい
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