ペンキ/草野春心
ペンキは塗られたばかりだった
ずっと、夏のあいだじゅう
きみはアイスクリームを食べにいった
ぼろい車に乗って闇雲に海沿いをひた走った
読まなくてもいい本を読んで 読むべき本を読まなかった
やがて きみは ある人を好きになって
それから それほど 好きではなくなった
以前ほどは 向こう見ずな笑みを見せなくなり
説明するのが面倒だから、というような
けったいな前置きのような笑みを増やしていった
わけがわからない
きみの体のどこか一部分に
そのペンキは ずっと、夏のあいだじゅう 塗られたばかりだったというのに
馬鹿げているとは思わないのだろうか
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