辛い記憶/クナリ
 

いつかすっかり全身を穴の中へ陥らせて
その先にあったのは
地の底を覆うような鉄格子
穴は既に深く掘り過ぎて
もといた場所にさえ
もう戻れない

爪が割れ
指は裂け
体は磨り減った

触れたいものなんて
この中にはもう何も無い
外にもとうに何もない

どうしてこんなところへ
来たのだったか

後から飢えるくらいなら
こんな檻の中へ逃げ込まなければよかったのだ

檻の中へ逃げ込まなければ
この世界から色は失せなかったのだ

触れることすらできない鉄格子の中
私が私でなくなるくらいに逃げ落ちたここで

私でなくなった私しかいないここで
ここでなければどこでもいいくらいどこかへ行きたいままで

手が痛いんだよ
手が痛いんだ

手が?

もう自分のためにしか泣けない。



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