被害/葉leaf
 
瞬間へと結びついていくように、すべては瞬間によって出来上がっていた。だがそのような瞬間により世界が覚醒するかのような事故において、私に残されたのは鼻の奥のプラスチックのにおいと事故後も鳴りつづけた音楽の持続だった。事故は体感的な衝撃としてその場その瞬間で終わるものではなかった。打撲の痛みや友人の謝罪・賠償、そんなものよりも、私の中には嗅覚的なにおいと聴覚的な音楽、その感覚が事故の真実の証人として、事故の最も鮮明な記憶として持続していったのである。

事故の被害は私を全く傷つけなかった。私は怒りもしなかったし憎しみも持たなかった。にもかかわらず、それは速やかに、かつ過剰に謝罪され、賠償された。私
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