欠落/アンテ
が佇んでいた
話しかけても返事がないので
近寄ってみると
それはカンヴァスに描かれた肖像画だった
欠けている部分はどこにもなく
絵は完全に仕上がっていた
人々は腹を立てて絵描きを捜したが
どこにも見当たらなかった
よくよく考えると
特に害を被ったわけでもなく
人々は相談して
絵描きの残した道具を全部処分し
家も取り壊し
絵描きの肖像画を燃やして
最初から存在しなかったことにした
帰路につきながら
なにかが欠けてしまったような淋しい気持ちになって
振り返って互いを呼ぼうとしたが
どうしても名前が思い出せなかった
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