欠落/アンテ
 
絵描きの描く肖像画は
どれも本物と見間違うほどの
素晴らしい出来映えだったが
どの絵からも
顔の構成品がひとつだけ欠けていた
片目の瞳だったり
上唇だったり
耳たぶだったり
必ずどこか一カ所がなかった
人々は絵描きに不満を洩らしたが
絵描きは描くことを頑なに拒んだ
中には自分で描き足してみる者もいたが
そこだけが異質で
まるで別人の顔になってしまった
絵を描き終えると
絵描きは礼も受け取らずにそそくさと後にして
脇目もふらずに家に帰ってしまった
ある時ぷっつりと
絵描きの姿が見えなくなったので
人々が絵描きの家に押し入ってみると
暗闇のなかにじっと絵描きが佇
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