夜を待っている/栗山透
 
へ出かけるまであと1時間
そろそろ準備を始めなくてはならない
彼女は諦めてカーテンを勢いよくすべて開けた

途端に部屋が朝になる
親密だった部屋が一気に他人になる
ベッドもテレビも本棚もマグカップも
きちんとした朝の顔になっている

彼女は寝巻きのまま
自分の部屋の様子をしばらく眺めた

友達が帰ったあとの公園みたい
ここで泣くこともできる、と彼女は考える

夜の優しさを
彼女はよく識っている

彼女は誰よりもうまく
夜の匂いを嗅ぐことができる
だから朝はいつも悲しい

「生きているかぎり悲しい」
「空が明るくなるかぎりわたしは悲しい」

彼女は鏡に自分の姿を映してみる
いつもとなにも変わらない
髪を手ぐしで整えながら彼女も朝になる

夜の彼女はまだ部屋を眺めている
夜を待っている

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