最後の紅/渡 ひろこ
やっと会えた母は、とても穏やかな顔をして眠っていた
真新しい白装束 解剖の痕跡も知らず
すでに身体は綺麗に浄められて
「コロっと死にたい」
いつもの口癖通り、突然の呆気ない最後だった
入浴中の脳梗塞 肺にいっぱい水が入り
蘇生の心臓マッサージにも
ぐにゃりと脱力した上半身を
揺らすだけだったという母は
「もういいから。向こうに逝かせて」
と願っていたのかもしれない
「焼いて灰にならなきゃ、治らない」
ことある度に、父の「我儘」という病を
そうやって自分に言い聞かせていた母
明治生まれの祖母に、長男というだけで
かしずかれて育った父と連れ添うのには
忍従より諦
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