わだつみの木/アオゾラ誤爆
ぽとりと海の水面に落ちた。とっさに旅人は目を瞑った。ああ、まだ始まってもいないのに――旅人は悔しいような淋しいような気持ちでいっぱいになった。また一人の真っ暗な孤独の中に投げ出されてしまう。そう思ったのだ。しかし、同時に、彼にとって孤独はもはや古い友人の一人であるかのようにも思えた。この夜じゅう読んできたたくさんの物語が彼の中で生きているのは、ほかでもない孤独のおかげかもしれない。
旅人は、おだやかな気持ちで目を開けた。そこに暗やみはなかった。朝が来ていたのだ。旅人はおどろき、また、安堵した。なんだ。本などいくらでも読めるし、こんなに明るいのだったら、またどこへでも行けるだろう。ふしぎな木は、姿を消していた。太陽が眩しい。急に体が重くなったように感じ、彼はしずかに目を閉じた。波はゆったりと舟を揺らしている。
旅人は、眠りについた。
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