「冷酷な都」/宇野康平
 
環状線沿いの古い2階建てのアパートメントで暮らして
いる男は、昼夜や問わずの車の騒音で慢性的な不眠症
に悩ませられていた。その騒音のために、男は気違い
になろうとしている。そんなある夜、男はシャワール
ームで一人、身を傷つけるような頽廃的な自慰を繰り
返していた。

終始、頭から水を被り、このまま消滅していまいたい
という欲望に胸の痛みを感じながら、肉落ちた身体を
撫でて慰める。しまいには頭の頂点から手の先まで狂
い、脂ののった鏡の水滴を舐める。それは自身と接吻
する形になり、対象形に分裂した己に興奮を覚えた。

「これでは、救いようがない」

何度も、何度も、繰り返
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