雨のない雷/栗山透
ひとを
見ませんでしたか？
そうです
さっきまでいっしょにいたんです
さっきまでここに はい
抱き合っていたのです
指にも足にも まだ感触が残ってる
痺れるような 浮いているような感覚
いいじゃないですか
こんなに悲しい世界で
抱き合ってはいけないと？
あなたになにがわかるのです？
あのひとしか居ないのです
わたしの世界にはあのひと一人きり
それを探しているのです
慌てても仕方ないでしょう？
さっきまでここに
もういいです
あなたは何処かへ消えてください
爪を剥いだって
あなたはあのひとには勝てない
喉仏を撃ち抜いたって
あなたはあのひとには勝てない
雷の音がする
すぐ近くですね
雨が降っていないときの
雷のほうが危険って知っていました？
さぁ あなたは消えてください
わたしはあのひとを探しているのです
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