「花弁と惰性」/宇野康平
 
ポップアートが壁に飾られたバーで、女の細い手首を見ながら
フランス産の安物のワインを飲んだ。不味くも美味くもないワ
インが喉を通り、ただ、飲んだという事実と13%のアルコール
によって私は幸福を感じた。

「単純な男」

真赤な口紅を塗った口が、惰性的に上下する。

好奇心にグラスを掲げて、ワイン越しに女を観察する試みは失
敗した。いや、諦めた。恐らく女が醜く見えるだろうから。

それを女に伝える。

「馬鹿な男」

呆れ顔に張り付いた唇は、煙を吐く瞬間に美しい花弁に形を変
える。いつも、それに飽きずに見惚れしまう。

また、それを女に伝える。すると花弁はなだらかな弧を描いて
微笑みに変わった。

それを見て私は、きっとこの女の花弁に食われる虫になったと
しても、幸福に感じるだろうと思った。


《劣の足掻きより:http://mi-ni-ma-lism.seesaa.net/
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