羊たち/草野春心
 


  羊たちは口をそろえて
  ここは退屈だ ここにはなにもない と言っていた
  それから達者なムーンウォークでじぶんたちの塒(ねぐら)へ消えてゆく
  唇にしまいこまれた狡猾な秘密のように 影ひとつ残すことなく



  古風なオルガンと暖炉の置かれた
  きみの家の中には 美しい赤い薔薇が咲いていた
  だからきみは赤い薔薇の夢を見たことがない、そうきみは嘆いていた
  夜ごとにきみの見るのは ただ 窓のない長く白い廊下を
  四つん這いになって歩いている夢だった 窓のない長い廊下に
  なぜかいくつもの水たまりがあって
  きみはそこだけを避けて歩かな
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