見捨てられた花瓶/草野春心
 


  懐中電灯はいつも冷蔵庫の上に置かれていた
  誰からも忘れられ埃ばかりかぶり
  微動することさえ許されず
  あなたの心はただ、白い朧な方形だけを思い浮かべて
  しゅるしゅるとぬるい回転を持続している
  まるで
  気の抜けた炭酸飲料
  テレビのなかで撃ちまくられる機関銃……
  けれども音は小さくしぼられ、
  幼児が廊下を走る音や
  水をかえていない花瓶と それはほとんど見分けがつかない
  殴られても あなたから差し出すものは何もない
  あなたはただ、きつく口を結び
  躯を岩石のように硬くするだけだ
  けれども見捨てられたもののもつ気高さが
  わたしたちを正面から睨みつけるのだ いつも
  闇の奥から 照らしつけるのだ



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