水のながれ/草野春心
 


  静脈血が 三日月の光を跳ね返しながら
  ながくほそい道を決められたとおりながれてゆく
  運命はそこかしこに石のように置かれ
  時々、砂をかぶって見えなくなる



  部屋のなかで 寂しく冷えた音楽をききながら
  世界じゅうのありとあらゆる水に わたしは思いを馳せる
  わたしの故郷にある濁った川に
  東京の蛇口から出たまずい水(それはいつもまずかった)
  ウィーンの街の 足元を彩る水路に
  わたしたちは静かに思いを馳せる
  それがもたらす潤しと癒し 危うさにさえ



  わたしの愛を あなたが黙って拒んだあの日
  あなたは涙をながさなかった
  それは初めからかわいていたのかもしれない
  あるいは それは 透明な
  大きな石のようなもので 堅く塞き止められていたのかもしれない
  夏の焼けるような陽射しを跳ね返しながら
  わたしの涙だけが どこか遠いところにむかってながれていた




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