事件/葉leaf
 
た男は男自身ではなかった。男はテレビで殺人事件を知ったが、そしてそれを自分が犯したことになっていることも知ったが、ゆったり背伸びをして食後のビールを飲んでいた。女の両親が取材に応えて男に対する厳しい処罰を求めた。女の遺体は検死され焼かれたが、それは女自身ではなかった。女は男に対する変わらない愛の中でパート仕事にも励んだ。女は自分が殺されたことになっていることを知ったが、それが彼女の幸福を壊すことはなかった。裁判が開かれ男には判決が下された。男は新しく水泳の趣味を始め、女は新しく活け花の趣味を始めた。事件はこうして男女間に発生したはずだが男女とは全く無関係に発生し展開した。情報は事実から緩やかに遊離していったのである。


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