ゲッチョバリウス/花形新次
薄暗い回廊を
ゲッチョバリウスの
音色を頼りに歩いていたとき
テペンモーケンの影が
目の前をゆっくりと通り過ぎた
その懐かしいスリモナを見たくて
走って追い付こうとするが
スリモナは影よりもずっと速く
見失ってしまう
ゲッチョバリウスは
低く悲しいソバルーティに変わっていた
「マンダルジィィッ!」
僕は思わず叫んだ
これを逃したら最後
もう二度とナカヤラーナには
会えない気がした
回廊の壁に飾られた
シュピルマンのサバグラフに描かれた
テペンモーケンと
その愛しいスリモナ
すべてはゲッチョバリウスが奏でた
幻想のセメターボだったのかもしれない
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