「変身」/月形半分子
 
静かな昼下がり、図書室に入ると

カーテンからまいあがる埃が光のなかで渦を巻いていた

私は美しいものになりたくて夢みがちに書棚をめぐりあるく

時々、ひんやりとした背表紙の感触を楽しみながら

突然、私の指に痛みがはしった

見ると、カフカ全集のなかから

刺のある虫の足が数本這い出ている

徐々にそれは、醜い姿を私の前にあらわす

カフカは目ざめたのだ

どうしたって美しくなれない私を嗅ぎ付けて

やがて、影が落ちてきて、私は飲み込まれていった

カフカが問う。「お前は何者だ」

問われる私の背中が真っ赤な薔薇模様に裂けると

体液を撒き散ら
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