朝の読書/ただのみきや
陽のあたる書棚 憩う一羽の本
タランチュラのような手が二つ
美しい表紙を捕まえると
隙間なく閉じられた頁に太い指が滑り
弛緩した貝 白いはらわたよ
青く刺青された文字は星々の瞬き
幾つもの過去を《今》にする
めくり めくる うらもおもても
目を這わせ 執拗に 咀嚼する
やがて舌先にのせてころがすように
発音 そして 発火
熟語はカブトムシの標本 美しい死体
かなもじはかなへびとなりクチビルヲスベリ
暗喩の毒が回り始める─古びた時計のように
朝は紫色に腫れ晴れと暮れ恥じ
文字に溺れる半魚人を
笑っている 何者かが
本の向こう 白い荒野から
《朝の読書:2013年11月12日》
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