静けさ/草野春心
 


  あなたの椅子が何も話さず
  ただ黙って眠っているように見えるとき
  切り分けられ 椀に盛られた柿の実だけが
  退屈な話を静かに続けていた



  昨夜
  あなたは
  親指の先を舌で濡らして
  書物のように風の頁を捲っていた
  さらさらと 日に焼けた音をたてて
  亜麻色の長い髪を あどけない形の耳に掛けて



  それは始まったばかりだったのだろうか
  それとも明日には読み終えてしまうのだろうか
  あなたの椅子はそのときも 何も話していなかった
  愛は静かなものだと 誰が言ったのだろう
  風が吹くことがなければ
  木々の葉がこんなにも
  騒がしく揺れるはずがないのだ



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