万年筆をなくした/因子
 
万年筆をなくした
千円でカートリッジ式のやっすいやつだけど
ここのところ頼りっぱなしだった
机に散乱する
紙切れの上のどうでもいい書き置きも
ちょっといい店で買った
分厚い表紙のノートの中身も
そこら中に彼女の筆跡があるから
ふいに目に入ってつらい
私の手は
相手に合わせる女で
その無愛想な黒い軸にそっと身を寄せて
愛しい字をたくさん
たくさん生んできたのだ

私は今日
彼女の捜索をあきらめて
ほかに何をしたらいいのか分からずに
この日曜を終えようとしている

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