R /salco
知りはしないのだ
こうして時は過ぎてゆく
春の落命は花の葬列に流れるがいい
秋に帰らぬ者は俯く家族に風を囁く
冬はすぐそこに来ている
誰もが身をこごめ
ゆるゆると歩いている
まるで辺土の敗残兵のようだ
子供達だけが声を持つ
蝶の声
夏の死こそ幸いなれ
人はもうその姿さえ憶えていない
彼が何者であったかも忘れてしまった
せめてあの息づかいを思い出そうと
鈍色の空に陽の幻を追い求めてみるが
己が足下の影にひきずられるように
わずらい疲れた足を運ぶばかりだ
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