亡き従兄弟に捧げる/イナエ
みえた
男は球状摂理の石に腰掛け一息入れた
麓で満たした水筒の水も残り少ない
が男には最後の一口は残しておく習慣がついていた
どこかに湧き水があれば良いのだがと思ったとき 麦わら帽
子の少年が一人崖道を登ってきた
村の少年に違いない
男は少年を呼んでアルミの水筒を取り出し水を汲んできてく
れるよう頼んだ
少年は村落の方へ駆けだし 山林に消えた消えた
男は煙草に火を付けて待った
すぐに戻ってくると思ったが一向に戻ってこない
吸い殻の火を丹念に消していた男の足が 苛立たしく地面を蹴し始めた
戦場では親切そうな村人に何度も裏切られた
あどけない少年といえども
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