思い出の痛みは嘘になる/ホロウ・シカエルボク
 
れからあたしはお酒を飲むところが好きになった。みんな楽しそうにしていて、賑やかで。音楽があって、それからちょっとあたしには判らないような大人の話があったりして。あたしはいろんなお店に入り浸るようになった。あたしにはもう過去も未来も無かった。こうしていろいろなお店でにこにこして暮らすんだって判ってた。みんなもそれを許してくれていた。だれもあたしにひどいことをしようなんて思わなかった。胸が膨らんできたってあたしはこの街の大きな子供だった。だからね、ジンのこと好きだったのかなんて、あたしには判らないの。かれが居なくなって寂しいのは確かだけどね。

 あたしは前よりずっと頻繁にファンタズムで飲むようになった。ジンが座っていた椅子に座って、ジンのお気に入りだったグラスを出してもらって、ジンがしてたみたいにのんびりと飲んだ。だけどね、ジンのロックだけは飲まないの。それをするときっと、彼は落ち着かないだろうなって、なんとなくそう思うから。




                               【了】

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