いとしさ/草野春心
 


  こんな寒い冬の日には
  錆びかけた薬缶に水をいれて
  ストーブのうえに置いておこう



  けさ、空気はするどく冷たく尖っていた
  鳥の声はぴんと張られた針金のようだった
  外は白い靄につつまれ…… ぼくは、
  きみのことを いとしいと思った
  こみあげる涙のような
  ほとばしる怒りのようなそれを
  なぜ ぼくは いとしさだとわかったのだろう



  ふいにふれた髪の毛はこごえている
  薬缶がしゅっしゅと音をたてている
  なぜ
  ぼくたちは
  何かとまちがえたりしないのだろう
  刺し貫かれ 引き裂かれる痛みのような
  抱きしめられ すべて赦される安らぎのような
  こんなにもややこしく わけのわからないものを



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