心に杭がささる/殿岡秀秋
背中に杭がささる
子どものころはそのまま
小学校に行った
人には見えないので
痛みをこらえている表情を見せなければ
だれにもわからない
休み時間に追いかけられて
プロレスのヘッドロックをかけられる
授業中だけ平穏な学校が
いやでたまらなかった
誰にも言えないで
学校へいくのを嫌がることしかできなかった
それがいつ終わったのか覚えていない
気づくと
杭はぬけて
痛みも消えて
ささっていたことすら忘れていた
しばらくして
また杭がささる
原因はたいてい近くの他人だ
大人になっても
同じ場所に杭がささる
友に話すことができれば
少し痛みがへる
独りになればまた疼きだす
時は移ろい
まわりが変化して
いつのまにか
杭がぬけていくことの繰返し
ささっている間
そのことを忘れることにする
そのために
お腹から吐く息を
見つめる
そこに
ぼくはいなくなり
杭も消えて
ただ息の透明な煙がある
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