少 年/塔野夏子
1
繊細な抒情と
硬質な抽象の狭間に
不意に出現する少年の輪郭
2
指さきから歌を零している
気づかずに どうしても
指さきから歌を零してしまう
3
羽搏きに似た瞬き
4
眦(まなじり)から閃く光 地上の流星
5
少年はいつも未知という余白を連れて
あざやかに自らを映し出す
6
生そのものが美しい傷
その傷に突き刺さっている少年自身
7
北十字に結ぶ約束
たとえ果たされることがなくとも
至純にきらめきつづける
8
少年の描く図形は常に三角形である
9
未だ鳴ることを知らない弦の上を月光が奔る
10
遠くからの声を聞いている
眠っていても めざめていても
果てしなさの呼ぶ声を耳の奥に聞いている
11
そして自らに手ひどく裏切られ
あやうく鋭く覚醒する
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