旅/
草野春心
旅になど出たくなかった
わたしは 部屋に鍵をかけた
カーテンをひいて静かな音楽をきいた
水をのみながら 岩間を抜けるほそい風のような
詩の言葉を待とうと思った
時間は
青空と木々と土と それから
愛するひとたちのにおいがする
わたしは桜をしっている
くらげのでる 晩夏の海辺で
あなたとしたくちづけの あのさびしさも……
旅になど わたしは出たくなかった 出なくてもよかった
こうして 静かに 目をとじているだけで
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