黒猫の話/嘉野千尋
「今夜も夜空が見えない」と
老いた猫が嘆きます
だれも教えてくれませんでした
嘆く猫の目が閉じられたままであることを
だれも老いた猫には教えてくれませんでした
垂れてしまった髭の先で
星がどれほどざわめいても
老いた猫は「寝かせてくれ」と答えますし
しょんぼりしたままのしっぽの上を
宇宙船が何度行き来しても
老いた猫は「鼠はもう食べ飽きた」と答えます
昔、猫の青い左目は月でした
そして金色の右目は太陽でした
いいえ、夢の話ではなく
たしかにそうだったのですよ
黒猫の話です
眠ってしまいましたか・・・?
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