無題/メチターチェリ
台風が日本の近海に近づいているそうなので、電車の中は汗とめまいとひどい湿気でさかったみたいになっている。寄りかからないようにと吊り革につかまって、結露がかった東急田園都市線の景色をながめた。日常なんてのはさ、たなびく霞のように幾重にも無意味な層をなして流れてくんだ。手前のおじさんは疲れた眼を閉じてときどき苦しそうにうなづいている。
市ヶ谷まで乗り継いで、高い街路樹が立ち並ぶ外堀通りを南に歩く。堀の水がときおり強い風になびいて堆積した落ち葉を腐らせた。反対側の通りにはビジネスホテルやモデルルームが入ったシックなビルが建っていて、眺望というドラマを街の真ん中に映しだしている。
最寄り駅
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