灰の雨/まーつん
 
溶け合って
 海の底に深く眠り

 一羽のシロサギが
 亡骸の間に立ち尽くし
 じっと、私を見つめている

 打ち寄せる波を背に
 鳥は、ゆっくりと
 翼を打ち振る

 巻き起こる風が
 見えない刃となって
 頬を切り裂き
 顔を庇って頽れる私



 四季を巡らす回転ドア
 その蝶番が錆びつき
 苦しげに軋しむ時

 シロサギは
 空に、問いかける

 いつ 私に
 春を返してくれるのか、と

 無言の空から
 答える様に
 灰が降る

 軽く、柔らかく
 粉雪のように
 でも、冷たくはない

 私の掌に
 粉と砕け

 風のない空を
 忍び足で
 降りてくる

 全ての魂を
 毛布となって
 包み込む

 眠気に駆られた
 シロサギは
 躯の間に蹲る

 その翼は
 二度と開かれず

 その両の眼は
 重く閉ざされ

 そして灰は
 降り積もる


 全ての命が、目覚めを
 忘れ果てるまで







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