人文主義者/岩下こずえ
 
ず僕の肩を撃ち抜き、次に足、最後に胸を撃った。

この無力さ。救いのなさ。この世界を救うために僕が出来る、唯一のことだ。「よし!」と言うこと……。こんなのが、実際に社会を良くすることなど、できやしない。自分の命が奪われることにすら、「よし!」と言うのだから。

戦争のために、何万人も死んだ。「よし。」
原子力発電所のために、街が、大地が、多くの生命が汚染され、失われた。「よし。」
大企業のインペリアリズムによって、人々の生活も、心も貧しくなってゆく。「よし。」
こうやって「よし」と言うたびに、僕の心はどんどんつぶれてゆく。僕は最後には泣き出しそうになる。それで、自分がいよいよ最低な人間に思えてくる。でも、僕は人々の幸福だけではなく、悲劇をも悲惨さをも愚行をも……、肯定したい。否定できない。

「すべて、よし。」

人間は愚かで、救いようがない。「大いに、よろしい。」

人でなし。それでも、人文主義者か?
いかにも。僕は人間のすべてを肯定する。そんな人は、「人でなし」以外の何者でもない。
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