人文主義者/岩下こずえ
暗闇のなかを歩きながら、想像してみた。
僕は、エジプトのあの騒乱のなかにいる。断続的に銃声が鳴り、そのたびに人々の悲鳴や怒声があがる。とつぜん、皆が走り出す。顔色が変わっている。死の感覚に周囲がのみ込まれる。軍隊がついに目に見えるところまでやってきたのだ。兵士たちは厳重な装備をしている……。そう思ったとき、彼らは僕へむけて銃をかまえる。「逃げろ!」と誰かが絶叫する。僕は足がすくんでしまい、動けない。だが、僕ははじめから諦めていて、今はもう微笑している。そして、僕は周囲の全ての人々へむけて拍手を送る。「すごいぞ!万歳!」と、歓声をあげる。のどがちぎれそうなほど、「よし!」と叫ぶ。兵士は、まず僕
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