九十億のそのつぎの/佐々宝砂
この惑星のこのあたりはそろそろ晩秋で
赤く色づきはじめたハゼの葉が
窓の外に揺れ
この惑星のこのあたりはそろそろ夕刻で
暗くなってきた室内に
パソコンの画面がまたたき
またたき
プリンタが突然動き出し
でももうなにひとつ印字されない
ご存じでしたか
この次元のこのあたりはもうおしまいなんですよ
存在の意味を失った紙切れは
風に舞うこともなく
ただ溶ける
風すらないんだもんね
ハゼの葉も
パソコンも
風も
私も
この宇宙は
もうおしまい
私たちの役目はおしまい
じきに冬がくるよ
氷雨も雪もない
まっ黒な冬が
すべてのものが静止
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