観覧車の見える場所/草野春心
 


  観覧車の見える場所で 夕陽が落ちるのを待ってた
  きみの左手に巻かれた馬鹿みたいな時計、
  その形が何かに似ていると思いながら



  足元に置いたコーヒーの空き缶には
  ぬるい液がまだ、ほんのしるしぐらいは残っている
  けれどもそれを拾い上げて きみは煙草を突っこんだ
  時間が 透明な砂になって
  透明な笊(ざる)をさらさらとくぐりぬけて
  肩の上に積もっていくのをぼくはわかっていた



  観覧車の見える場所で ぼくたちは観覧車を見てはいなかった
  それにたぶん本当は 夕陽を待ってたわけでもない
  きみの左手に巻かれたものは何かに似ていた
  何もかもに 似ていた




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