書く動力 1/Dr.Jaco
 
だから完治したとは言えない頚のしこりは未だに心配だが、変調の原因ではなかった。

変調はあるイメージが再びやって来たことによってもたらされた。
何度でも引きずり戻されるそのイメージは他愛もない。が、私は常に描写に失敗して
いる。
それは寝床の白いシーツに寄った皺の風景である。幼い頃の風景である。真っ白いシ
ーツに寝転がって、顔の側に手を持ってくる。指をシーツに押し当ててすっと滑らす
と皺が寄る。それが事実の全てだが、いくら私がアホでもその事実だけに吸い寄せら
れた訳でない。問題はその視界なのだ。

さて、視界には皺の寄ったシーツがあるのだが、その真っ白な視界にできる皺の影が
問題なのだ(既にここにおいても描写は失敗しているので、伝わらないのを承知しつ
つ・・・)。
皺には砂丘の日陰と日向のように境目ができる。白の中に黒でない暗がりができる。
その境目が愛おしいと思うのだ。

「言葉さん」はその境目でにこやかに手を振っている。でも未だ会ったことは無い。
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