ひとつ 翠光/木立 悟
冬は重なり
遠のいていった
蒼は銀になり白になり
やがて見えなくなり
聴こえなくなり
さらに見えなくなった
映った力が生きていて
刷毛のように支配した
塗り残された街から先に
みんなみんな逃げ出した
硝子 鏡 冬
暮れの油が石像に降り
中庭に浮かんだ石の卵へ
誰もが双子の言葉をかけてはすぎる
風のなかの白と黒に耐え切れず
羽を持つものは羽をたたんだ
路に降りると
脚を持つものは皆笑っていた
雪のなかの墓石はどれも
墓地をすぎるものにどこか似ている
蒼も灰も 昼も午後も
にじみながら近づいてゆく
雨の棘を抜き
音の棘を抜く
翠の光が
家と家の間を照らす
岩の街を船は離れる
空も川も火も渦を巻く
ひとつの冬 ひとつの浪
曇が外れた空白に
玻璃の羽を描いてゆく
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