鈍色のひかり/石田とわ
薄縹の空のした浜辺をひとり歩く
潮の香りと眠りの匂い
拾った貝に耳をあてれば
なつかしいひとの声
「元気かい」
「見てよ、この姿」
貝の中から笑うあなたの声
「好きなように生きればいいさ」
聞いて欲しいことはたくさんあって
言いたいこともたくさんあったのに
口にしたら二度と逢えない気がして
「またね」
震える手で拾った貝を海に戻す
さみしさが見せる幻か
恋しさが聴かせる幻聴か
寄せてはかえす鈍色の波間に映るあなた
もう一度小さくまたねと呟いて
海に背を向けた
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