心を置いてきた。/瑠依
「悪いとは思うが、預かってはくれないか。」
故郷の母に。
同窓の友に。
馴染みのあの人に。
寂しそうに笑う君に。
いつか引き取りに行くから。
押入れの奥でも良いから。
部屋の片隅に置かせてもらえるだけで良いから。
埃が積もっていたならたまにはハタキをかけてくれ。
そこにあることを年に一回くらいは思い出してくれ。
「謙虚だろう。」
自分で言う奴があるか、そう言って笑っただろう。
ちっとも謙虚じゃない、なんて眉を潜めただろう。
それでも、受取拒否はされなかったものだ。
やさしい人たちだ。
「理由?」
これから行かなければならない場所がある。
心を持っては行けないところだ。
無にならねば辿り着けない場所だ。
「寂しくはない。」
必ずまた戻ってくるから。
すべてにケリがついたなら。
どうか、それまで。
「心を、どうぞ宜しく。」
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