夜のタマネギと砂の城/ストーリーテラー
みんなが寝静まったので
何もかも忘れてしまった僕は
いつものように、夜のタマネギを剥き始めた。
一枚剥くと
最後まで剥き終われば何かを思い出すはずだ、ということを思い出した。
もう一枚剥くと
寂しさと苦しみを迎えに行こうとしているのだ、ということを思い出した。
でも、まだまだわからない。
何があるのか思い出せない。
ベッドの背にもたれて
僕はひたすら夜の皮を剥いだ。
あと一枚、というところで
タマネギの芯には『これから』があることを思い出した。
はっとして、泣きながら
そっと、そっと、元に戻そうとしたのに
爪のない震える指が
タマネギの芯に触れてしまった。
世界を
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