谷川雁詩集 現代詩文庫を読む/葉leaf
人でした。だから彼の詩の世界は、単なる個人的な感覚や妄想の世界でもないし、「私」と特権的な「あなた」の閉ざされた世界でもありません。彼の詩の世界は、不特定多数の「あなた」や巨大な「社会」を包み込むと同時に、それらに包み込まれ、互いに呼応していくスケールの大きな世界なのです。
*
世界をよこせ
まっかな腫れもののまんなかで
馬車のかたちをしたうらみはとまる
桶屋がつくる桶そのままの
おそろしい価値をよこせ 涙をよこせ
なめくじに走るひとしずくの音符も
やさしい畝もたべてしまえ
青空から煉瓦がふるとき
ほしがるものだけが岩石隊長だ
美的なものと政治的
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)