それでも/木屋 亞万
いつもの面々と酒を飲み
繰り返す日々の傷みを知る
繰り返す延々と
繰り返すくりかえす
表と裏を何度もなんども見つめながら
新しいことが少ない日々を
ひっくり返さず受け止める
それでも
開けたまま持ってもらえた扉が
台風が去ったあとの澄んだ空気が
やけに丸い橙の月が
じりじりと焼けていく途中の肉が
猛暑の中で冷房の効いた空間が
それでも
うまく発酵したパンが
微笑みながら差し出されたてのひらが
ぐっと体を押しあてられた温もりが
つま先から入る湯船のお湯が
すれ違いざまの懐かしい香水が
それでも
犬の肉球が
あかんぼうの微笑みが
いとしい人の鼻歌が
ウィンカーとラジオの音楽が
走り終わった汗に吹く風が
それでも
しあわせなのだと
おしえてくれる
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