それでも/木屋 亞万
 

いつもの面々と酒を飲み
繰り返す日々の傷みを知る

繰り返す延々と
繰り返すくりかえす
表と裏を何度もなんども見つめながら
新しいことが少ない日々を
ひっくり返さず受け止める

それでも
開けたまま持ってもらえた扉が
台風が去ったあとの澄んだ空気が
やけに丸い橙の月が
じりじりと焼けていく途中の肉が
猛暑の中で冷房の効いた空間が

それでも
うまく発酵したパンが
微笑みながら差し出されたてのひらが
ぐっと体を押しあてられた温もりが
つま先から入る湯船のお湯が
すれ違いざまの懐かしい香水が

それでも
犬の肉球が
あかんぼうの微笑みが
いとしい人の鼻歌が
ウィンカーとラジオの音楽が
走り終わった汗に吹く風が

それでも
しあわせなのだと
おしえてくれる
戻る   Point(10)