ぶ厚いカーキ色のタイツ/栗山透
彼女の脚
彼女の肩はよく覚えている
暗い部屋で見た白い陶器みたいな肩
子どもみたいなのに大人の身体
貝殻みたいな耳
いつからか
女性の裸が恐くなった
ナイフで皮を剥がれ
血まみれになった動物の体のようだ
「綺麗じゃん、女の身体」
友だちは言った
確かに綺麗だよ
「心臓に
直接触っているような気分になるんだ」
僕は言ってみた
友だちは僕のほうを見て
「なにそれ、わかんない」と言った
僕だってわかんない
彼女はまだまっすぐ前を見て話をしている
今日の僕はひどい
僕らの目の前には広大な海がある
波の音は想像していたよりずっと大きい
白い波しぶきがここまで届きそうだ
遠くのほうにぽつりと
舟が浮かんでいる
なんだかさみしそうな舟だ
いつの間にか彼女の話は終わっていた
彼女も同じ舟を見ているようだった
「漁船かな?」彼女は聞いた
「さあ?」僕は答える
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