つるはしと亀おんな/アラガイs
 
た。時代遅れの派手な開襟シャツを着た男。刈り込みの鋭い両側の耳たぶに彫られた小さな嘴。竜を背負い、まるで身内にでも話しかけるような勢いのある大げさな身のこなしで威圧する。馴れ馴れしくキョロキョロと忙しない大きな瞳はお調子者の象徴か。ちょっと見ただけでヤバいその筋に関係したお方の雰囲気だ。しかし、逆にこの胡散臭さはよほど玄人扱いに慣れた人間でしかわからない面持ちでもあった。間髪を逃さず鳴き声をあげながら動きまわるあひるの乾かない舌下。それを見ただけでは計りしれないほど、とにかく彼は口が巧かった。
通称ヤッさんと呼ばれる、一見30過ぎくらいにしか見えないこのいかがわしい男は、1964年の夏には中学生
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