つるはしと亀おんな/アラガイs
 

東口から西口を抜ける地下通路はいつも乗降客で溢れている。
比較的に混雑が少ないのは中央の広場から駅を跨いで裏側に出る南側の通路だ。買い物客で分かれるこちら側の通路は、通勤時間を過ぎれば人の足もぐっと減る。もっともお昼どきを過ぎた頃になれば、今度は買い物に駆り出す主婦の姿が多くなる。バブルの崩壊も我が身には関係ない奥様方だ。ぼくはいつも少し廻り道をしてこの通路を歩くようにしていた。
(おい ! ちょっと兄ちゃんよ 。右の腕に大きな亀の刺青をした女をこの辺りで見かけたことはないかい? いや、ひょっとしたら聞いたことないかい?)
こんなことを尋ねながらほぼ毎日この通路を徘徊している男がいた。
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