ルビーの指環/花形新次
 
いつもとは違った
激痛はなかった
ただ蟻の門渡りに熱い違和感があった
予感はしていた
あいつが生まれようと
何かを堰き止めていた
命の限り
水を飲んだ
水を飲み続けた
そして股間の違和感をそのままに
眠りについた

膀胱が破裂しそうだった
飛び起きると
レストルームにダッシュした
すべてを解き放った
ほっとしたその時
金属音が明け方の静寂を切り裂いて響いた

忘れていた
寝ているうちに
あいつが生まれようとしていたことを
忘れてしまっていた

運よく
あいつは跳ね返っても
便器の水のない部分に
大人しく座っていた
俺を傷付けた証として
薄っすら赤みがかっていた
ルビーの様だった

この石で
彼女に記念の指輪を作ろう
フォーマル向きの指輪を作ろうと思った

そっと手に取ると
ほんのり
アンモニア臭がした

戻る   Point(1)