アパートメント/伊織
 
たぶん今頃あなたは
見知らぬ女のために
木綿豆腐を切り分け
お出汁にすべりこませる
積算書にメモ書きをしてみせた
やわらかく白い指先で


一方残業を終えたばかりのわたしは
娘のお迎えの時間を
概算で実母に連絡する
夕食は既に済ませている


完全に隔てられている生活
交わり合うはずのない生活


隣に住む学生カップルは
バラエティーを見ては笑いあう
反対側の隣の老夫婦のことは
よくわからない


壁一枚で分けられた生活
行儀よく収められた生活


例えばあなたの箱と私の箱は
約3km離れているのだが
それらを並べて置いてみたところで
ユニットはそれぞれ独立しているが故に
どうあろうと2つであることに違いはない
箱は
わかれている


今日もまた積算の書類を持ってあなたが来る
パブリックスペースは
常に
こんなにも
残酷だ
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