水島英己「小さなものの眠り」を読んで 〜引用を生きる〜/中川達矢
 
マングローブの林」

 かつて島尾敏雄がいた場所に訪れて、語り手はカーヴァーの詩を思い出す。汽水域という場所。それは単に「水と水が出会うところ」である。だが、現在から見れば、その汽水域はただの湖であるかもしれないが、その湖と思わしき場所は、どこからか流れてきた水が溜まってできたものだ。つまり、かつて川か何かであった過去を背負い、現在にあって水の淀みとなっている。しかし、現在にいる語り手を含む私たちに現れているのは、ただの淀みでしかない。そうした現在から過去を拾い上げること。もしくは、過去があることで現在があると再認識する慎重さが、この語り手の特徴と言えるだろう。

 生と死はどこで出会うの
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