暗峠/春日線香
奥は暗くておそろしければ… 和泉式部
ふいに戸を閉められて
暗い場所に置き去りにされてみれば
息をするのもままならぬほどで
手探りで進む手に
布がひらひらとまといつく
天井に着物でも吊るされているのか
探っても探っても壁はなく
道行きの果ては底知れず
ただ衣ずれの中を進んでいく
それが幾晩も続いて
ついに耐え切れず
懐から取り出した火打ち石を
がちりと打ち鳴らすと
火花は空中にはじけ飛び
燃え移った闇に一瞬だけ
無数の首が浮かび上がり
笑いや怒りを含んで
山頂のほうまで延々と
人の顔の連なりであった
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